息で歌うとは
私の実践し、教えるY先生から継承したベルカント唱法では、全ての音を息だけで歌います。
つまり、発声技術=呼吸法です。決して筋力ではありません。
では、息だけで歌うとはどういうことか。
実は、息だけで歌いなさいという指導を受けたのはY先生が初めてではありません。と言うか、さも当然のようにそういう指導をするボイストレーナーの方は結構いらっしゃると思うのですが、皮肉なことに彼らのほとんどは”息だけで歌えていません”。
だから、言葉だけで発声を理解するのは無理なんですけれども、もし私の記事を少しでも参考にされて練習される方がいらっしゃったら、誤解を与えると申し訳ないので説明しておこうと思います。
私が生徒にこのことを教えるときには、まず発声の要素を分解して教えます。この発声は次のように分解できます。
音程をとる場所→マスケラ、目線の高さのポジション
発音する場所→口の前、犬歯の辺り
喉の形→四角形
息→(男性は)ファルセットの息
これらの要素が、前提条件となります。まずこのことをちゃんと理解してくださっていないと、私の書く記事は全て誤解して理解されるだろうし、「書いてある通りにやっても全然できないじゃないか!」となるでしょう。
全て説明していると発声本ができてしまうので、標題の件に戻ります。
これらの基礎ができた人には息で歌う技術を指導していきますが、そのときには、”音高に見合った適切な息”を吐くように教えます。
つまり、ドはドの息、レはレの息で歌うということです。当たり前だろと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ドをシの息で歌ったりその逆になっている人がたくさんいます。と言うか、技術を教えなければまずそうなってます。それで、そういう人は、「高音が詰まる、息が抜けない」などの症状に苦しむわけです。
その息の作り方はレッスンで教えてますが、作る場所は、喉を開けている下側の部分。鎖骨のところ~喉頭で作ります。ここは、説明に慎重さが求められる部分です。この喉頭~鎖骨にかけて、ある種の抵抗があります。ある意味支え、アッポッジョに近いものです。
しかし、意図的に喉頭を下げることとは全く違います。その抵抗を、上向きの息だけで感じて、喉は完全にアペルトな状態で発声します。
おそらく、伝統的ベルカントではない発声との一番大きな違いはここにあって、息の技術に筋力を組み合わせるために、メソッドが複雑化、多様化しています。
伝統的ベルカントでは息の方向は、下から上、真っ直ぐしか存在しません。必然的に、喉はアペルトのままで行くしかなくなります。
喉で何か操作をしようとすると、必ず薄い音が入り、隙のあるミックスボイスになります。(喉声という意味ではありません)
そのような声はリート歌手の多くに見ることができますが、Y先生の発声ではご法度です。