男声と女声
私が思うに、男声は女声に比べて声楽のスタートラインで不利な状況にあります。
歌う際に、声帯は伸展と閉鎖の両方のバランスが保たれる必要がありますが、極めて大雑把に言えば、男声は閉鎖が得意で、女声は伸展が得意です。このうち、技術的に重要なのは伸展の方なので、私は女声にアドバンテージがあるように思うのです。
もちろん個人差はありますが、男性の喋り声はいわゆる”地声”です。特に低い声の人に多いのですが、声帯の伸展機能が殆ど働いていない状態で喋っている人がいます。このパターンだと、日常的に伸展機能を使っていないため、発声の勉強をするときにまずそこを使えるようにしていかないといけません。この練習は、正直非常に骨が折れます。なぜなら私自身がかつてそうであって、高音を獲得するのに大変に苦労をしたからです。
ただ、近年の男性は高音化・中性化しており、あまり当てはまらないかもしれません。。いわゆる声の高い人(必ずしもテノールとは限らない)は、女性に近い発声で喋っています。
女性については、普段伸展機能優先で声帯を使って喋っているので、比較的歌声への切り換えがスムーズです。
私がレッスンをする際にはまずその人の喋り方の癖から、発声のバランスを推測します。これは侮れないことです。人は歌っている時間より喋っている時間の方がずーっと長いわけですから、当然喋り声の癖は発声バランスに極めて大きな影響を与えます。
便宜的に、閉鎖>伸展タイプを男声型、伸展>閉鎖タイプを女声型としましょう。
男声型―かつての私もそうでしたが―は、声帯の伸展機能が弱く、発声に力みが生じやすいです。特徴としては、高音が叫び声になったり裏返ったりする、また、音程が常にフラットしてしまう・・・など。この状態だとまず1曲歌うだけでも相当に喉が疲弊してしまいます。足りない伸展を強靭な腹筋の支えで補おうとしてしまいがちなのもこのタイプで、そうなってくるとその癖を取り除くのに多大な時間を要します。決して珍しいタイプではなく、日本のバス、バリトンによく見られます。稀ではありますが、女性でもこのタイプは存在します。
女声型は、閉鎖機能が弱いので、声量に乏しいほか一定以上の高音が楽音として使える声になりません。また、低中音は息漏れ気味で何だかスカスカしています。ただ、基本としている息の種類は悪くないので、支えと呼吸法を勉強すれば必ず上達します。レッスンで伸びやすいのは圧倒的にこちらですね。
女声型で発声に悩んでいる人はすぐにでもレッスンに来ていただきたいところですが、男声型の人はレッスンに通う前にやるべきことがあります。
明日に続きます。