響かせるのをやめてみよう
声を響かせようという意識のある方は、それだけでご立派なことと思います。(嫌味ではなく)
そもそも力づくで喉で押した声で歌っていたり、支えの入らないふわふわした声で歌っている人は、響かせるどころではないでしょう。
だから、今日の話はある程度歌える(ようになった)人向けということになりますか。
そのくらいのレベルになって成長が止まる場合、原因の何割かは”声を響かせようとする意識”にあります。
「じゃあお前は響かせようとしていないのか」という質問に対しては、明確に「はい」と答えます。
弦楽器でも管楽器でも、楽器経験者にはイメージしやすいのですが、未経験者も想像してみてください。
そもそも我々には声帯という驚異的な性能を持つ楽器と、その振動を増幅させるボディが生まれながらに備わっています。
しかし、声をコントロールすることを覚え始めると、その楽器やボディそのものまで都合良くコントロールできるかのような錯覚に陥るのです。
それが、”声を響かせようとする意識”です。なので、勇気を持ってそれをやめます。
既にある楽器とボディの性能を信じて、自分からは何も変えず、ただそっと、柔らかく、息を吹き込んであげましょう。
残念ながら、男性は呼吸をコントロールするためのテクニックが複雑なため、これだけでは無理です。
一方、女性はこの感覚が掴めれば飛躍的に声量が増し、ブレスコントロールが高次元の段階に到達します。
マスケラに響かせる、とか、頭に響かせる、とか今日からやめてみてください。
我慢して練習しているうちに、それらの意識がどれだけ自然な発声を遠ざけていたか実感できてくると思います。
私が思うに、響かせようとする意識は「甘え」なんです。
響かせようとしていると、歌っています!感があって、安心できるんですね。
そして困ったことに、録音をしてもその違いはほとんどわからない。むしろ、人為的に響かせた声の方が録音では良く聴こえたりするので困りものです。
声楽の全体像を理解するには、声を身体から全て放してあげる必要があるのですが、響かせようとする意識はそれを邪魔します。
楽器に徹するということは、ある意味声楽的な悟りを開くことと言えると思います。
歌っているときに自意識をゼロにすることは本当に難しい。でも、正しいメソッドで訓練していると徐々にできるようになってくるから、人間の身体はよくできているものと思います。
・・・とは書いたものの、聴衆の前でソロで歌う経験を積まないと、このことは理解できないでしょう。
狭い練習室の中では、私が教えていても時々判断に迷うことがあるし、聴きわけられる耳を持つ人は稀だと思います。自分1人で練習しているならなおさらわかりません。この段階では録音機はほとんどアテにならないです。録音に良く入る声を目指すと、むしろ間違った方向に行ってしまうでしょう。
おそらく合唱を専門になさる方の技術的な限界はこの辺りだろうと思っています。